第2話 アップライトにすると、なぜ低いひっかけが減ることがあるのか

ライ角を「手元の高さ」と「力のベクトル」から考える

前回は、ライ角についてこう整理しました。

ライ角とは、フェースの向きではなく、手元の高さである。

もちろん、ライ角を変えればフェース面の向きにも影響します。
アップライトにすれば左へ出やすく、フラットにすれば右へ出やすい。

これは間違いではありません。

しかし、それだけでライ角を考えると、フィッティングを間違えることがあります。

たとえば、左に低く飛ぶゴルファーがいたとします。

一般的には、

「左に行くなら、少しフラットにしましょう」

と言いたくなります。

ところが実際には、アップライトにした方が症状が改善することがあります。

左に低く飛んでいた球が、少し高くなり、左へのひっかけが弱まり、センター方向へ戻る。

一見すると逆のことをしているように見えます。

では、なぜそのようなことが起きるのでしょうか。


左に低く飛ぶ原因は、フェースの返りすぎだけではない

左に低く飛ぶボールを見ると、多くの人はこう考えます。

フェースが返りすぎている。
手を使いすぎている。
つかまりすぎている。

もちろん、そういうケースもあります。

しかし、低いひっかけの原因はそれだけではありません。

特に多いのが、

アウトサイドインが強い状態で、ロフトが立ち、フェースが左を向いて当たっている

というケースです。

この場合、ボールは低く出ます。
そして左へ飛びます。

これは、単にフェースが返りすぎたというより、

クラブが外から入り、力のベクトルが左下へ向いている

と考えた方が分かりやすいです。


手元が低いと、クラブは外から入りやすくなる

フラットすぎるクラブを使っている人は、知らないうちに手元を低く使っていることがあります。

クラブを地面に合わせようとすると、手元が下がる。
手元が下がると、腕が体から外れやすくなる。
腕が外れると、クラブが外側に逃げやすくなる。
クラブが外に逃げると、戻すときに外から入りやすくなる。

この流れです。

そして、外から入ったクラブをインパクトで間に合わせようとすると、手を使います。

手首をほどく。
ヘッドを返す。
フェースを合わせる。
ロフトを立てる。
左へ引き込む。

これで低いひっかけが出ます。

つまり、左に飛んでいる原因が、

クラブがアップライトすぎるから左に行っている

のではなく、

手元が低くなりすぎて、外から左下へ叩き込んでいる

場合があるのです。


ここでフラットにすると、症状が悪化することがある

このタイプの人に対して、

「左に行くからフラット」

と判断すると、危険です。

なぜなら、フラットにすると手元はさらに低くなりやすいからです。

手元がさらに低くなる。
腕がさらに体から外れる。
クラブがさらに外に逃げる。
外から入る度合いが強くなる。
ロフトがさらに立つ。
左に低く飛ぶ。

つまり、左に飛んでいるからフラットにしたのに、結果としてもっと左に低く飛ぶことがある。

ここが、ライ角フィッティングの難しいところです。

ライ角をフェース向きだけで見ていると、この現象を説明できません。

しかし、ライ角を手元高さとして見れば説明できます。


アップライトにすると、手元が上がる

アップライトにすると、クラブを自然に構えたときの手元は上がります。

7番アイアンで1度アップライトにすると、手元はおおよそ7〜8mm上がります。

この7〜8mmは小さく見えます。

しかし、手元の高さが変わると、クラブの通り道が変わります。

手元が少し高くなる。
腕が体の近くに戻りやすくなる。
クラブが外へ逃げにくくなる。
ダウンスイングで外からかぶせにくくなる。
ロフトが残りやすくなる。
フェースを手で合わせる必要が減る。

その結果、低いひっかけが減ることがあります。

ここで起きているのは、

アップライトにしたから左へ行った

ではありません。

むしろ、

アップライトにしたことで、左へ低く飛ばすスイング構造が弱まった

ということです。


ダウンスイングの軌道も変わる

ライ角を1度変えたからといって、ダウンスイング軌道がそのまま1度変わるわけではありません。

しかし、手元の高さが変われば、クラブの通り道は変わります。

特にアウトサイドインが強い人の場合、アップライトにすることで、

  • 手元が低くなりすぎない
  • クラブが体の近くを通る
  • 手元が前に出にくい
  • ヘッドが外からかぶりにくい
  • 入射が少し穏やかになる

という変化が起きることがあります。

結果として、ダウンスイングのクラブ軌道が、少しフラット方向へ整理される。

数字で言えば、1度アップライトにしたことで、軌道が0.5度前後変わるだけでも大きいです。

なぜなら、ゴルフボールは150ヤード先、170ヤード先へ飛んでいくからです。

わずかな角度差が、落下地点では数ヤードの差になります。


ただし、実際の変化はもっと大きい

単純に方向だけで考えれば、1度の打ち出し方向の違いは、150ヤード先で約2.6ヤードの横ズレです。

しかし、実際にはそれだけではありません。

ライ角を変えることで、手元の高さが変わる。
手元の高さが変わることで、クラブの通り道が変わる。
クラブの通り道が変わることで、ボールに加わる力の向きが変わる。

つまり、変わるのは打ち出し方向だけではありません。

  • 出球方向
  • 入射角
  • ロフト
  • フェース向き
  • フェース・トゥ・パス
  • スピン軸
  • ボールの高さ
  • キャリー地点

これらが同時に変わります。

だから、実際の落下地点は、単なる1度分の横ズレ以上に戻ることがあります。

特に、低く左へ飛んでいた球が、少し高くなり、左への曲がりが減る場合、落下地点は5ヤード、場合によっては10ヤード以上センター側へ戻ることもあります。

これは、ライ角がボールの方向を少し変えたのではありません。

インパクトでボールに加わる力のベクトルが変わった

と考えるべきです。


「つかまえるために手元を低くする」は危険

ここで、非常に大事な話があります。

つかまえるために、インパクトで手元を低くする。

これは危険です。

たしかに、手元を低くすれば、ヘッドが返りやすく感じるかもしれません。
フェースも左を向きやすくなります。

しかし、それは本当の意味でのつかまりではありません。

手元を低くしてフェースを返すと、

  • クラブが外から入りやすい
  • ロフトが立ちやすい
  • フェースを手で合わせやすい
  • ボールが低くなる
  • 左へ飛びやすい

という状態になりやすい。

これは、つかまりではなく、低いひっかけの製造工程です。

本当のつかまりとは、手元を低くしてフェースを返すことではありません。

クラブが適切な通り道を通り、ロフトが残り、フェースが必要な向きに戻ること

です。

そのためには、手元の高さを無理に操作するのではなく、クラブ側で自然に適正な位置へ導く必要があります。

ライ角は、そのための重要な要素です。


アップライトは「左に行かせる調整」ではない

ここまで来ると、アップライトの見方が変わります。

アップライトは、単に左へ行かせる調整ではありません。

人によっては、

低すぎる手元を適正な高さへ戻す調整

になります。

手元が適正な高さへ戻れば、クラブの通り道が変わります。
クラブの通り道が変われば、力のベクトルが変わります。
力のベクトルが変われば、ボールの高さと方向が変わります。

その結果、左に低く飛んでいたボールが、センター方向へ戻ることがある。

つまり、アップライトは左へ行かせるためではなく、

左へ低く飛ばしていた原因を弱めるために使われることがある

ということです。


フィッティングでは「球の行き先」だけを見てはいけない

フィッティングで大切なのは、ボールの行き先だけを見ないことです。

左に行った。
ではフラット。

右に行った。
ではアップライト。

これだけでは危険です。

本当に見るべきなのは、

なぜその方向へ飛んだのか

です。

左に飛んだ原因が、アップライトすぎるライ角なのか。
それとも、手元が低くなりすぎて外から入っているのか。
ロフトが立ちすぎているのか。
フェースを手で合わせているのか。
力のベクトルが左下へ向いているのか。

ここを見ないと、ライ角調整は逆効果になることがあります。


まとめ

左に低く飛ぶ人に、アップライトなクラブをすすめると改善することがあります。

それは、アップライトにしたことで左へ行かせたのではありません。

アップライトにしたことで、手元の高さが上がり、クラブの通り道が変わり、外から左下へ叩き込む構造が弱まったからです。

ライ角が変わる。
手元の高さが変わる。
クラブの通り道が変わる。
力のベクトルが変わる。
ボールの高さと落下地点が変わる。

この流れを理解すると、ライ角フィッティングは単なる方向補正ではなくなります。

ライ角とは、インパクトへ向かう力の向きを整える調整である。

次回は、この考え方をPINGのカラーコードチャートと結びつけて考えていきます。

PINGは明示的に「アウトサイドインの人はアップライト」とは言っていません。
しかし、カラーコードチャートは、この問題をかなり吸収しています。

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第6話 人間だから使える加速資源

二足歩行と左股関節の上昇

前回は、インパクトゾーンでクラブがなぜ加速するのかを整理しました。

ポイントは、クラブを手で叩くことではありませんでした。

バンプによって左股関節側に圧力が移る。
そこから左股関節が上昇する。
骨盤が回転しながら抜ける。
身体の回転が止まらない。
手元が移動し続ける。
クラブの遅れが、接線方向のヘッド速度へ変換される。

これが、インパクトゾーンでヘッドが減速せずに通過する大きな理由だと考えました。

今回は、その考えをもう少し広げます。

この左股関節の上昇による加速は、アプローチだけの話ではありません。

フルスイングでも、同じ原理は発生しています。

そして、このことを考えるたびに私は、これは 人間だから使える加速資源 なのだと思います。


人間は、股関節を上下させて前へ進む

人間は二足歩行をします。

歩く時、人間はただ脚を前に出しているわけではありません。

股関節が上下する。
骨盤がわずかに回旋する。
左右の脚が交互に支持脚になる。
重心が前へ移動する。

この仕組みによって、人間は前へ進んでいます。

つまり、人間の身体には、もともと

股関節の上下運動と骨盤の回旋を使って、重心を移動させる仕組み

が備わっているわけです。

これは、ゴルフスイングにも非常に大きく関係していると思います。 “第6話 人間だから使える加速資源” の続きを読む

第5話 クラブの遅れは、なぜヘッド速度に変わるのか

左股関節の上昇と接線方向の加速

ここまで、アプローチの距離感を 入力 という視点から整理してきました。

第2話では、有効重量 m を一定にすること。
第3話では、加速度 a を一定にすること。
第4話では、加速距離 s を変えることで、インパクト時の速度 V を管理すること。

式で言えば、

V² = 2as

そして、

E ≒ 1/2mV²

です。

つまり、アプローチの入力制御とは、

m を一定にする。
a を一定にする。
s を変える。

その結果として、インパクト時の V が決まり、ボールへ伝わる仕事量が決まる。

ここまでは整理できました。

しかし、ここで一つ大きな問題が残ります。

では、クラブの遅れは、なぜインパクトゾーンでヘッド速度に変わるのか。

短いアプローチでも、ヘッドが芝に負けず、ボールに仕事をする。
手で叩きにいかなくても、ヘッドがインパクトを通過する。
ポールターのように、短い距離でも緩まない。

その原因を説明しないままでは、入力の話はまだ完成しません。

今回は、インパクトゾーンでの加速の原理を整理します。 “第5話 クラブの遅れは、なぜヘッド速度に変わるのか” の続きを読む

第2話 スクエアスタンスでは、変数が多すぎる

有効重量 m を一定にするためのオープンスタンス

前回は、オリムピッククラブで見たイアン・ポールターのアプローチ練習から、

アプローチは、ボールではなくウェッジへの入力から始まる

という話をしました。

ポールターのアプローチは、手先で距離を合わせているようには見えませんでした。
インパクトで弱めている感じもない。
大きく上げて、当たる直前に調整している感じもない。

むしろ、構えの時点で、すでにウェッジに入る入力の上限を決めているように見えました。

その中心にあったのが、スタンスの向きです。

スタンスをオープンにすることで、バックスイングが大きくなりすぎない。
そして、フォロー側には身体が抜けていく。

この構造が、距離感の安定につながっているのではないか。

今回はその理由を、有効重量という考え方から整理してみます。


距離感は、ヘッドスピードだけでは決まらない

アプローチの距離感というと、多くの人はヘッドスピードを考えます。

速く振れば飛ぶ。
遅く振れば飛ばない。

もちろん、それは間違いではありません。 “第2話 スクエアスタンスでは、変数が多すぎる” の続きを読む

第1話 マキロイより気になったポールターの安定感

アプローチは、ボールではなくウェッジへの入力から始まる

オリムピッククラブで、イアン・ポールターのアプローチ練習を見たことがあります。

その時、近くではローリー・マキロイも練習していました。

普通に考えれば、目を奪われるのはマキロイです。
世界トップクラスのスイング。
圧倒的なスピード。
身体能力の高さ。
ボールを打つ姿そのものに、華があります。

ところが、その時の私は、なぜかポールターのアプローチから目が離せませんでした。

理由は、派手さではありません。
高く上げる球でも、強烈なスピンでもありません。

むしろ、見た目にはとても静かでした。

しかし、ボールが同じような距離に集まっていく。
構えが大きく変わらない。
リズムも大きく変わらない。
インパクトで緩んでいる感じもない。

その安定感が、妙に印象に残ったのです。

イアン・ポールターといえば、ライダーカップで強さを発揮した選手です。

ヨーロッパチームの一員として、何度も重要な場面で結果を出してきました。
“THE POSTMAN” と呼ばれたのも、必要な場面で必ず仕事を届ける、という意味合いがあったのだと思います。

一打一打の意味が重くなる場面で、力を発揮できる選手です。

そのポールターのアプローチ練習を見ていると、なるほどと思う部分がありました。

勝負どころで強い選手のアプローチは、手先で距離を合わせているようには見えない。
偶然寄せているようにも見えない。

最初から、距離が大きく外れない構造を作っているように見えたのです。

私が特に気になったのは、スタンスの向きでした。

ポールターは、スタンスのオープン度を変えることで、バックスイングの大きさを制限しているように見えました。

つまり、何ヤードだから手でここまで上げる、というよりも、
構えた時点で、

そこまでしか上がらない状態

を作っているように見えたのです。

これは、非常に重要です。

多くのアマチュアは、短いアプローチで距離を落とそうとすると、インパクトで弱めます。

大きく上げて、当たる直前に緩める。
ヘッドを止める。
身体を止める。
手で合わせる。

しかし、それでは毎回違うインパクトになります。

ある時は身体ごと動く。
ある時は腕だけになる。
ある時は手首だけで合わせる。
ある時はヘッドだけが走る。

これでは、距離感がそろいません。

アプローチの距離感というと、多くの人はまず結果を考えます。

何ヤード飛ばすか。
どこに落とすか。
どれくらい転がすか。
スピンを入れるか。
高く上げるか。
低く出すか。

もちろん、それらは大切です。

しかし、それはすべて結果側の話です。

その前にあるのは、

ウェッジにどれだけの入力を与えるか

です。

ここを見落としてはいけません。

アプローチは、ボールをどうするかの前に、ウェッジに何をさせるかです。

ウェッジに入る入力が大きすぎれば、インパクトで減速しなければならない。
入力が小さすぎれば、芝に負ける。
入力が毎回違えば、キャリーもスピンもランも読めない。

だから、まず制御すべきなのはボールではありません。

ウェッジへの入力です。

この時のポールターのアプローチは、まさにそこが整理されているように見えました。

スタンスの向きで、バックスイングの大きさを制限する。
バックスイングの大きさが制限されれば、クラブヘッドが加速できる距離も制限される。
加速できる距離が制限されれば、インパクト時のヘッド速度も大きくなりすぎない。

つまり、距離をインパクトで殺しているのではなく、
構えの時点で、ウェッジに入る入力の上限を決めている。

ここに、プロのアプローチの大きなヒントがあります。

アプローチが苦手な人ほど、インパクトで距離を合わせようとします。

「強かった」
「弱かった」
「緩んだ」
「入った」
「手が出た」
「ヘッドが走った」

こういう言葉が多くなります。

しかし、インパクトで調整している限り、距離感は安定しません。

なぜなら、インパクトは一瞬だからです。
その一瞬で、速度、ロフト、フェース向き、最下点、入射角、スピン量をすべて合わせようとするのは、あまりにも難しい。

本来は逆です。

インパクトで合わせるのではなく、
インパクトまでに、すでに合う状態を作っておく。

ポールターのアプローチには、その考え方が見えたのです。

このシリーズでは、アプローチを少し違う角度から考えていきます。

テーマは、距離感ではありません。

もっと手前にある、

ウェッジへの入力制御

です。

アプローチの距離は、単に振り幅だけで決まるわけではありません。
ヘッドスピードだけで決まるわけでもありません。

身体とクラブがどれだけつながっているか。
どれだけ一定の圧力でクラブを動かせているか。
どれだけの加速距離を与えているか。

そうした要素によって、ウェッジへの入力は決まります。

そして、その入力が安定して初めて、ボール位置、フェースの開き、バンス、グリップポジションといった出力側の調整が意味を持ちます。

ポールターのアプローチ練習を見た時、私はただ「安定している」と感じました。

しかし、今あらためて考えると、その安定感には理由があったのだと思います。

距離を手で合わせていたのではない。
インパクトで弱めていたのでもない。
大きく振って、途中で調整していたのでもない。

構えの段階で、ウェッジへの入力を決めていた。

その入力が大きくなりすぎないように、スタンスの向きでバックスイングを制限していた。
そして、その制限された入力を、最後まで止めずに使っていた。

だから、短い距離でも緩まない。
だから、ボールが同じような距離に集まる。
だから、アプローチに安定感が出る。

アプローチは、ボールに合わせる技術ではありません。

まず、ウェッジに入る入力をそろえる技術です。

ボールの高さ、スピン、ラン、落とし場所は、その後に出てくる結果です。

次回は、この入力をもう少し物理的に考えます。

特に重要になるのは、

有効重量

です。

同じヘッドスピードでも、身体とクラブが一体で動いているのか、手先だけで合わせているのかで、ボールに伝わる仕事量は変わります。

つまり、距離感を狂わせているのは、スピードだけではありません。

ウェッジに乗っている有効重量が、毎回変わっていること。

ここに、アプローチが安定しない大きな理由があります。

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ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話

売れる言葉と、PINGが見ていたもの

――しなりの大きさではなく、ボールに何が伝わったか――

前回は、ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性について書きました。

ヘッドスピードを上げる練習器具には、たしかに効用があります。

普段より強く振るきっかけになる。
出力制限が外れる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
一時的に飛距離が伸びることもある。

ですから、ヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

ただし、問題はその先です。

そのヘッドスピードが、どのように作られたのか。
そして、その速度がボールスピードに変換されたのか。

ここを見なければなりません。

体を止める。
手を使う。
リリースを早くする。
身体とクラブの束縛を早く切る。

こうした動きでも、ヘッドスピードという数字は上がります。

しかし、その代わりに有効重量を失い、インパクトでクラブが軽くなっているなら、それは本当に飛ぶスイングに近づいたとは言えません。

ヘッドスピードは上がった。
しかし、クラブは軽くなった。

ここに、ヘッドスピードアップという言葉の難しさがあります。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話” の続きを読む

ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第2話

ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性

――一時的に飛ぶからこそ、注意が必要です――

前回は、金沢市のジュニア練習会での出来事から、ヘッドスピードと飛距離は同じではないという話をしました。

簡易的な測定器では、ジュニアの方がヘッドスピードで勝っていました。
しかし、実際にボールを打つと、委員長の方が50ヤードほど飛ぶ。

ここに、ヘッドスピードという数字の難しさがあります。

ヘッドスピードは、クラブヘッドがどれだけ速く動いたかを示す数字です。
しかし、飛距離を決めるのは、それだけではありません。

本当に見るべきなのは、

そのヘッドスピードが、どれだけボールスピードに変換されたか

です。

今回は、そこからもう一歩進んで、ヘッドスピードを上げる練習器具について考えてみたいと思います。


ゴルフの練習器具には、ヘッドスピードアップを前面に出したものがたくさんあります。

ヘッドスピードが上がる。
振るだけで飛距離アップ。
ヘッドが走る。
速く振れるようになる。

こうした言葉は、とても分かりやすいです。

そして、実際に使ってみると、一時的にヘッドスピードが上がることもあります。
場合によっては、ボールスピードが上がり、飛距離が伸びることもあります。

ですから、私はヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

効用はあります。

普段より強く振るきっかけになる。
普段より大きく振るきっかけになる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
クラブを振ることへの怖さが減る。
自分にはまだ速く振れる余地があると気づく。

こういう意味では、ヘッドスピードアップ系の器具は、一定の役割を持っています。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第2話” の続きを読む

ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか? 第1話

ヘッドスピードで勝って、飛距離で負ける理由

――飛距離を決めるのは、ヘッドスピードだけではありません――

ゴルフでは、よくこう言われます。

ヘッドスピードを上げれば飛ぶ。
ヘッドが走れば飛ぶ。
速く振れれば飛距離が伸びる。

たしかに、これは間違いではありません。

ヘッドスピードは、飛距離を作る大切な要素です。
ヘッドスピードがなければ、ボールスピードも出にくくなります。

しかし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。

ヘッドスピードが速いことと、実際に飛ぶことは、同じではない。

このことを、非常に分かりやすく感じた出来事がありました。


金沢市のジュニア練習会でのことです。

簡易的にヘッドスピードを測る器具を使って、委員長とジュニアの子がヘッドスピードを競い合っていました。

数値だけを見ると、勝ったのはジュニアでした。
当然、ジュニアは大喜びです。

ヘッドスピードで大人に勝った。
自分の方が速く振れている。
これは、子どもにとってはとても分かりやすい成功体験です。

ところが、実際にボールを打ってみると、結果は違いました。

飛距離は、委員長の方が約50ヤードも飛ぶのです。

“ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか? 第1話” の続きを読む

エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感

このシリーズでは、ヘッドスピード、ボールスピード、有効重量、ベクトル分散、体重移動、そしてスターシステムへつなげて、スインガースイングについて考えてきました。

最後に、どうしても触れておきたい言葉があります。

それが、

ボールに当てる

という表現です。

もちろん、物理的にはクラブヘッドはボールに当たっています。
これは間違いありません。

しかし、スイングの意識として、

ボールに当てに行く
フェースを合わせる
インパクトでつじつまを合わせる

となった瞬間、スイングは小さくなります。

手で合わせる。
ヘッドをボールに向ける。
フェースを返す。
身体を止める。
インパクトで押し込む。

こうなると、身体とクラブの接続は切れやすくなります。
有効重量は逃げます。
ベクトルは分散します。

つまり、

当てに行った結果、軽く当たる

のです。

これは、かなり皮肉な話です。 “エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感” の続きを読む

ベクトル分散が飛距離を奪う

有効重量で考えるスインガースイング・第6話

前回は、

ヘッドスピードを上げたつもりが、なぜ軽く当たってしまうのか

について考えました。

飛ばそうとして、もっと速く振る。
もっと強く振る。
もっと手を使う。
もっとヘッドを走らせる。

その気持ちは、とてもよく分かります。

しかし、その動きによって身体とクラブの接続が切れてしまうと、有効重量は小さくなります。

つまり、ヘッドは速く動いている。
しかし、ボールにぶつかっているものは軽い。

これが、

速く振っているのに、軽く当たっている

という状態です。

今回は、そこからさらに一歩進めて、

ベクトル分散

について考えてみます。


飛距離を考えるとき、多くの人は力の大きさを考えます。

もっと強く振る。
もっと速く振る。
もっと大きく動く。

もちろん、力の大きさは大切です。
エネルギーが小さければ、ボールは飛びません。

しかし、ゴルフで本当に難しいのは、

その力がどの方向へ向かっているか

です。

力は、大きければよいわけではありません。

前に届く力。
上に逃げる力。
横に逃げる力。
フェースを開閉させる力。
ロフトを増やす力。
スピンに変わる力。

同じように強く振っていても、その力がどこへ向かっているかによって、結果はまったく変わります。

私はこの、力の向きがあちこちへ散ってしまう状態を、

ベクトル分散

と考えています。


たとえば、ヘッドスピードを上げようとして、手でヘッドを走らせたとします。

クラブヘッドは速く動いているように感じるかもしれません。
しかし、身体とクラブの接続が切れると、クラブは安定した方向へ動きにくくなります。

その結果、力の向きが散ります。

ボールを前へ押す力にならず、
フェースを開く力になったり、
ロフトを寝かせる力になったり、
スピンを増やす力になったり、
横方向へ曲げる力になったりします。

本人は強く振っている。
しかし、その強さがボールを前へ飛ばす方向へ集中していない。

これが、ベクトル分散です。


ベクトル分散が起きると、ボールは弱くなります。

ヘッドスピードは出ている。
でも、ボールスピードが出ない。

フェースに当たっている。
でも、前に強く進まない。

高く上がる。
でも、キャリーが出ない。

スピンが増える。
曲がる。
打点が散る。

こういう現象は、単に「ミスショット」と片づけるよりも、

エネルギーが前方へ集中していない

と考えた方が分かりやすい場合があります。

クラブは動いている。
力も出している。
しかし、ボールへ向かう一本の方向へまとまっていない。

だから、飛距離にならないのです。


ここで、有効重量の話とつながります。

有効重量が大きくても、ベクトルが分散すれば、ボールには届きません。

逆に、有効重量が小さく、さらにベクトルも分散していれば、最悪です。

腕だけでクラブを速く動かす。
有効重量は小さくなる。
身体とクラブの接続も切れる。
力の向きも散る。

こうなると、本人は一生懸命振っているのに、ボールは強くなりません。

むしろ、

頑張るほど曲がる
強く振るほどスピンが増える
速く振るほど当たりが薄くなる

ということが起きます。

これは努力不足ではありません。
力の通り道の問題です。


では、スインガーは何が違うのでしょうか。

スインガーは、力を出していないわけではありません。
むしろ、身体とクラブが一体化しているため、有効重量は大きくなります。

しかし、その力が散りにくい。

身体とクラブがつながっている。
クラブが急に暴れない。
手先だけでフェースを返さない。
インパクトで急に押し込まない。
身体が前へ突っ込まない。

その結果、力の向きがそろいやすくなります。

上に逃げる力ではなく、
横に逃げる力でもなく、
ロフトを寝かせる力でもなく、
ボールを前へ進める力として届きやすくなる。

これが、スインガーの強さです。


ここで、よくある誤解があります。

では、真っすぐ前に押せばよいのか?

という考えです。

しかし、ゴルフスイングは単純に直線的に押す運動ではありません。

クラブは円運動をしています。
身体も回転しています。
シャフトも傾いています。
ロフトもあります。
フェース面もあります。

その中で、ボールに対してどの方向に力が通るのか。

ここが重要です。

ですから、ベクトルをそろえるというのは、単にボール方向へ体を突っ込ませることではありません。
また、手でボールを押すことでもありません。

身体とクラブが一体化した運動の中で、結果として力がボールへ通る状態を作ることです。


ここで、ライン・オブ・コンプレッションの話が出てきます。

ライン・オブ・コンプレッションとは、簡単に言えば、インパクトで力がボールに圧縮として通る方向です。

この方向に力が通れば、ボールは強くなります。

反対に、このラインから外れれば、エネルギーは逃げます。

ロフトが増えすぎれば、上に逃げる。
フェースが開けば、横に逃げる。
手元が止まれば、フェースが返りすぎる。
身体が突っ込めば、入射角や最下点が乱れる。

つまり、ベクトル分散とは、ライン・オブ・コンプレッションに力が集まっていない状態とも言えます。

スインガーを考えるうえで、ここは非常に大切です。


多くのゴルファーは、飛距離を伸ばすために力を増やそうとします。

しかし、本当に必要なのは、

力を増やすこと

だけではありません。

力を散らさないこと

です。

これは、とても大事な違いです。

力を増やしても、上や横に逃げれば飛距離にはなりません。
むしろ、曲がりやスピンや身体への負担が増えるだけです。

一方、力そのものがそれほど大きく見えなくても、向きがそろっていれば、ボールは強くなります。

だから、上手い人のスイングは静かに見えることがあります。

力がないのではありません。
力が散っていないのです。


この見方をすると、

軽く振っているのに飛ぶ

という現象も、さらに分かりやすくなります。

軽く振ったから飛んだのではありません。
余計な力が入らなかったことで、身体とクラブの接続が切れにくくなった。
有効重量が逃げにくくなった。
そして、力の向きが分散しにくくなった。

その結果、ボールへ届く出力が大きくなった。

つまり、軽く見えるスイングは、

力が小さいスイング

ではなく、

力の無駄が少ないスイング

である可能性があります。

ここを間違えると、ただ力を抜くだけのスイングになってしまいます。


スインガーは、弱く振る人ではありません。

スインガーは、有効重量を逃がさず、力の向きをそろえる人です。

クラブを手で走らせるのではなく、身体とクラブが一体化した運動の結果として、クラブが走らされる。

そして、そのクラブの運動が、ライン・オブ・コンプレッションへ向かって通る。

だから、見た目には力感が少なくても、ボールは強い。

これが、スインガーのメカニズムです。


今回の結論は、こうです。

飛距離に必要なのは、力の大きさだけではありません。
その力が、どの方向へ通っているかです。

ヘッドスピードを上げても、力が上に逃げれば吹け上がります。
横に逃げれば曲がります。
ロフトを増やせばスピンに変わります。
フェースを暴れさせれば打点が散ります。

つまり、力は出しているのに、ボールスピードや飛距離に変わらない。

これがベクトル分散です。

スインガーに必要なのは、

有効重量を大きくすること
そして、その有効重量を散らさずにボールへ届けること

です。

速さ。
重さ。
方向。

この三つがそろって、初めてボールスピードになります。


次回は、ここから少し視点を変えて、

加齢で飛ばなくなった人に、まだ残っている武器

について考えてみます。

年齢とともに、筋肉の収縮スピードは落ちます。
ヘッドスピードが落ちるのは自然なことです。

しかし、身体の重さまで失ったわけではありません。

むしろ、若い頃より体重が増えている方も多いはずです。

次回は、加齢ゴルファーこそ、なぜスインガーの考え方が必要なのかを考えてみたいと思います。

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